RSS    SEARCH

================================================================================

tumblr.flyer.to

================================================================================

( 二十歳そこそこでITベンチャーを起こし、ビットバレーを根城に大活躍のハイパーメディアクリエイター。 )

================================================================================

12/20/2009 20:13:10

"

会社の後輩にひとり、洋服のすきな男がいて、わたしが四年前に買ったダウンジャケットを、「くれくれ」とねだってくる。毎年、冬になるたびにねだられる。わたしの持っているダウンジャケットは、ノースフェイスというメーカーのわりといいやつで、五万円以上したものだ。そうかんたんに手放したくはないが、今年の冬もまたいわれた。「最近ノース着てないじゃないすかー。くださいよ」。ものすごいおしゃれ執念である。わたしはついに根負けした。

この数年のあいだに、わたしの服装にもいろいろな変化があった。自分にはダウンジャケットやスニーカー、ジーンズといったアウトドア系のファッションが似あわないという事実を再確認し、服装の方向性を変えたのだ。わたしはほんとうに、ジーンズ姿がださい男になってしまった。だから正直、ノースのダウンも年に一度か二度、ほんとうに寒いときに着るだけになった。わたしがダウンジャケットを着ると、雪かきをたのまれた休日のお父さんみたいに見えた。もはやアウトドア系のおしゃれはできないと痛感した。

そうなれば、あのダウンを持っていてもしかたがない。いいじゃないか、後輩に譲っても。売ってもいいが、値段をいくらにしていいのかわからない。後輩なんだし、どうせならただであげようとおもった。別に持っていても着ないわたしが、このままたんすのこやしにするより、着たがっている後輩にあげた方がいいし、どう考えても、あのダウンを着て似あうのは後輩だ。

そして今日。後輩にあげるダウンを大きな袋に入れて家をでて、電車に乗ったわたしは、網棚の上にダウンを置き、席に座って文庫本を読み、目的の駅に到着すると、ダウンを網棚に置いたまま電車を降りてしまった。

フロイトは、言いまちがいやもの忘れ、紛失などのできごとには、かならず無意識の心理が働いていると述べた。フロイト理論に拠るならば、わたしがダウンを網棚に置き忘れたのは、心の底では、わたしはそのダウンを後輩にあげたくなくて、あげるくらいなら網棚にでも置いてきてしまった方がまだましだ、とおもっていたからだということになる。そんなつもりはなかったが、しだいに自分が情けなくなってきた。なんてわたしはせこいのか。そんな手段に訴えてでも、後輩にダウンをあげたくないのか。後輩を気づかうやさしい男ではなかったのか。フロイトなんか読まなければよかった。わたしは、ダウンをあげたくないという無意識が、「網棚に荷物置き忘れ」という奥の手をだしてまで必死に抵抗するようすに戦慄しながら、駅の忘れもの相談所へと向かった。

「すいません、さっき電車に」といいかけたところで、相談所の机の上に、わたしのダウンが入った袋があるのを見つけた。終点の駅だったことがさいわいしたのだ。ああよかった。駅員さんは、忘れもの受領書に記入するようにいい、わたしが記入を終えて提出すると、「なんでこんなに大きな荷物、忘れちゃったの」とふしぎそうにいった。

かくして紛失はまぬがれ、後輩にダウンをあげることができた。ダウンを試着した彼は、「うわー、これいいっすねえ」といいながら、にこにこと鏡に向かって、みずからのダウン姿を眺めていた。いいことをしたような気持ちになり、立ち去ろうとするわたしに彼は、「あ、そうだ。もう一着、ノースの防水のジャケット、たしか持ってましたよね。あれも着てないじゃないすか。あれ、どうしてんすか。ねえ。あの防水のやつ」とたたみかけてくるので、しだいにせつなくなり、やっぱりこのダウンは網棚に置いておくべきだったとあらためておもった。

"

--------------------------------------------------------------------------------

--------------------------------------------------------------------------------

 

================================================================================

Designed: Robert Boylan
Powered: Tumblr